
北岸 郁雄 Ikuo Kitagishi | Money Forward Lab所長
日本電信電話株式会社でロボット教示方式等の研究開発業務に従事後、ヤフー株式会社に入社。技術競争力の基盤作りとして、Yahoo! JAPAN研究所を設立。以来、研究開発マネジメント、新規事業領域の開拓、関連会社の取締役等の業務を執行。2018年12月に当社に入社し、2019年3月Money Forward Lab所長に就任。
私は2018年12月にマネーフォワードに入社し、2019年3月にMoney Forward Lab(以下「Lab」)を立ち上げ、以来、所長を務めています。
マネーフォワードに入社したきっかけは、2018年の3月ごろ、知人を介して「お前にしかできない仕事があるんだけど、話聞いてみない?」と言われたことでした。

実際に話を聞いてみたところ、マネーフォワードでは2016年ころから、中長期的な視座でテクノロジーでユーザーのより大きな課題を解決するために、研究開発組織を作りたい、という構想を持っていたのですが、研究開発組織を設立・運用するというのは会社として大きな投資ですし、経験や知見がないとなかなか難しい。そこで、私の前職での研究組織の設立と運用経験を見込んでいただいたことを知りました。
それから副業として約半年間、マネーフォワードの多くの方々と議論を重ね、特に組織ミッションやビジョンについて議論を重ねました。そして、大枠が固まったタイミングで、「一緒にやってみないか?」と、改めて声掛けいただきました。
当時のマネーフォワードは創業6年、社員数約300名でしたが、明確に先を見据えて技術に投資をしていくという姿勢や熱量に将来性を感じました。
ただ前職とは、事業領域やビジネスモデル、カルチャーなども大きく異なるため、期待に応えられるかという大きなプレッシャーもありましたが、当時の上長や同僚にもよく相談をして背中を押してもらいました。
我々のチームには、金融やメーカー出身の研究者や、データサイエンティストが多く、平均年齢は30代前半です。他社の研究開発組織に比べると、平均年齢は若いのではないかと思います。
先程お話ししたとおり、設立当時のマネーフォワードはメンバー数が約300人ほどでしたが、5年後(2024年3月頃)には、事業領域も拡大して2,000人以上の規模に成長すると考えていたので、中長期的な視点で、会社の成長と共に経験を積み上げながら成長できる人を意識して採用してきました。
また、特に会計領域は、専門知識が必要で、データや課題を適切に理解することが非常に難しいこともあり、採用や定着にはある程度の時間を要するとも考えていました。
メンバーに共通するのは「研究成果を社会的価値に還元したい」という明確な意志を持っていることです。
転職に際して「事業会社で事業部門と距離が近い研究開発組織で働きたい」という動機を持っている方が多いのも共通点だと思います。
今は全員が中途採用者ですが、彼らの豊富な経験に新たな価値観や創造性を融合し、常に進化し続けることができる組織にするために、2025年度からは新卒の採用を予定しています。もちろん研究者や研究開発マネージャーの中途採用にも引き続き力を入れています。
我々は、R&Dの成果やその過程で得られた知見をプロダクトに適用し、ユーザーに価値を届けることを最終ゴールとしています。
そのため、まずはプロダクト部門と議論をしながら、「お客さまの課題を適切に捉える」ことがR&Dのスタートです。抽象度の高い課題から、具体的なものまで様々なレベルの課題が複数出てきますが、そこから核心となる技術課題を抽出し、R&Dのテーマに落とし込んでいきます。
こうして、できるだけ汎用性の高いR&Dに取り組むように心掛けています。
R&Dのスタートからプロトタイピングまでは、研究者が単独で推進することが多いのですが、プロトタイピングを通してプロダクト部門からフィードバックをもらいつつ、徐々にプロダクト側のより具体的な需要にあわせ込んでいき、導入条件が決まったタイミングで共同プロジェクト化します。各研究者は、プロダクト部門とキーマンとつながりを持ちつつ、以降のR&Dを推進していきます。
また、こういったプロセスにおいて、論文を出したり、特許を出願したりすることにも積極的に取り組んでいます。

これまでの実績をグラフにまとめました。上述のようなアプローチでR&Dを推進している特徴がよく表れているのではないかと思います(縦軸は数ですが省略しています)。
R&Dですので、お蔵入り(やってみたものの成果が活用されず撤退)するケースも、もちろんありますが、その数は極めて少なく、特許や論文としても結実することができています。

<Money Forward Labの実績をまとめたグラフ>
Money Forward Labは「お金のメカニズムを解き明かすことで、人生に笑顔と驚きを。」をミッションとして、テクノロジーとデータを駆使した研究開発に取り組んでおり、その究極のゴールとして「Autonomous BackOffice(オートノマス・バックオフィス)」を掲げています。「企業のバックオフィスの自律化」です。

バックオフィスの自律化を、自動車に例えると、人が設定した目的地まで人の運転操作を不要とする自動運転の、更に先にある「自律運転」です。
自律運転の場合は、周辺情報から、経路や目的地の変更や経由地の追加などを自動車が自律的に判断し「目的地まで、安心・安全・快適に移動したい」という、より上位の願望を実現します。
同じように、企業のバックオフィス業務の自律化も「思い描いた経営を安心・安全・快適に実行する」ことを目指しています。そのためには、人が認知・判断・操作することをAIによって支援したり、それらをAIが代わりに実行したりすることを通じて、煩雑なバックオフィス業務から解放され、働く皆さんが企業のミッションを実現することに集中できる環境を作りたいと考えています。
究極のゴールである「Autonomous BackOffice」に辿り着くためのルートはいくつも存在するとは思いますが、我々は現時点では次の4つのルートが最短・最速だと信じてR&Dを推進しています。
①入力作業からの解放
バックオフィス業務において、究極的には「タイピング業務」をゼロにすることで、業務の効率化や生産性の向上を実現する。
②判断能力の拡張
経理・財務やカスタマーサポート業務など、企業ごとのルールへの対応専門知識が要求される業務を支援することで、業務の効率化や生産性の向上を実現する。
③取引の安心・安全
購買や融資などの企業間取引における安心・安全を実現する。
④未来の予測・解釈
資金繰りなど、企業経営の少し先の未来を精緻に予測し、その予測根拠を言語的に説明可能にすることで、経営力向上を実現する。
(例)
① + ②:カスタマーサポート返信メール自動生成、自動消込
② + ③:自動審査モデル
④:支出予測とその予測根拠説明

また実現に向けて自動車の自動化のように、「Autonomous BackOffice」の自動化・自律化レベルを0〜7の8段階に分けて、R&Dとしては特にLevel.5以上にチャレンジしています。

マネーフォワードは、会社としてのMission、Visionが明確です。なので、Money Forward Labでも、研究開発組織としてのMissionやVision、Goalを明確に持つことができています。
また、プロダクト部門に近いところで研究開発しており、それぞれの研究者がプロダクト部門と共同のプロジェクトを持っている、というのは特徴の1つだと考えています。R&Dテーマは、「Autonomous BackOffice」実現に資するもので、少なくとも、先に述べた4つ(「入力作業からの解放」「判断能力の拡張」「取引の安心安全」「未来の予測・解釈」)のいずれか1つを実現するものであり、Autonomous Level.5以上にチャレンジにすること、という大枠からはみ出ない限りでは、何に取り組むかの自由度は大きく、研究者が裁量権を持っています。
ただ、SaaS ✕ Fintechの事業環境の変化も激しいですし、昨今の生成AIに代表されるようにSaaS ✕ Fintechに大きな影響を与える技術の進歩も日進月歩です。そのため、年に一度は、全員で中長期戦略を一ヶ月ほどかけて議論をしながら戦略の見直しをしています。
変化し続けるSaaS × Fintechの領域に合わせて、我々も外部環境に対して柔軟な対応ができる組織でありたいと思っています。

間もなく5年になる組織ですが、これまでの5年間は土台を作り上げたにすぎません。今後どう成長させていくのかは、今在籍している研究者や、これから入社いただく皆さんと丁寧に考えながら進めていきたいと思います。
研究者のキャリアについても、正直に言ってまだモデルになるようなものはありません。
ただ、マネーフォワードには「チャレンジシステム」という社内異動制度がありますので、例えばエンジニアにキャリアチェンジしてプロダクト部門でモノづくりの経験を積みたい、と思ったときに他のポジションへ異動を検討できます。実際に、自身のR&Dの成果をもって、AI系のエンジニアリング部門に異動し、プロダクト実装を担当した研究者もいました。
今は全社的にAIへのコミットを求められている背景もあるので、Labを起点にして自由なキャリアを選択しやすい環境です。
【これからジョインする方へのメッセージ】
マネーフォワードのMission、VisionやMoney Forward Labの「Autonomous BackOffice」の実現に共感していただける方はウェルカムです。
Money Forward Labは、応用研究に取り組んでいますので、研究成果がプロダクトを通して活用されることが存在価値です。ですので、アウトプット志向を持った方にきていただけるといいな、と考えています。
事業会社の中で、事業に近いところで仕事をすることで、自らのアウトプットが世の中からどんなフィードバックを受けるのかをダイレクトに感じられて、「いい緊張感」の中で仕事ができる環境です。
また、メンバー数がまだ約130人だった2016年頃から、中長期的な成長のためにはR&D組織が必要であることを認識するなど、技術への積極的な投資姿勢が明確です。こうした環境で安心して研究開発に取り組めるのも、研究者にとって魅力のひとつではないかと思います。

新卒採用
中途採用
取材・文・撮影/新田大航(マネーフォワード Corporate Identity 推進室)
取材協力/橋口竜治(People Forward本部 中途採用部)